お隣さんと内緒の恋話

ふて腐れながら雅は私と葵の後ろから上映時間も迫り入場した。

葵の後を追うように歩き席につく。


「 雅は俺らの前に座れ 」


前に?


「 はいはい 」


雅が私たちより2列前に座ったのを確認し、葵はホッとしたように私を見た。


「 葵、なんで雅くんに前に座るよう言ったの?」

「 あいつが後ろだと、映画より俺らを見るから。それに後ろから気配感じたくない 」


えっ! そうなのね…


私は前に座る雅の後頭部に向けて邪念を送った。


まったく、どんな趣味してんのよ!

だから葵、前に座れなんて言ったんだ。

こんなことなら冒険映画にすれば良かった…


「 やっと、椿と二人だな… 」

「 うん… 」


前に雅くんいるけどね。

この際 ムシよ。


開始の合図、ブザーが鳴ると場内の照明が落ちていき予告編が流れる。

大音響が耳を突き抜きる。


耳、響きすぎる… 耳栓あれば良かったな。


大きな声では話せないため、ある程度 近い距離が 話すときはさらに近くなる。

映画が始まるが、目線はスクリーンにいくが、時おり葵をチラ見してしまう。

肘宛に葵の腕が乗ると、少し寂しさを感じた。

ポップコーンも飲み物もあって手は繋ぎにくい。

妙なドキドキ感が私に何かを訴えている。



手、繋ぎたいな…


肘の先には手がブランとしていて無防備。

下から手を絡ませるように繋げば… そう考えるだけで心臓が早鐘打った。


自然に繋げば…

手くらい いいじゃん。


葵を横目に見ている私に気がついたのか 葵が 私に顔を向けた。

ニコッと笑う私に 葵は真面目そのもの。

恋する二人にアクション映画の刺激は薄い。

映画の迫力に負けない私と葵の恋の熱は 互いを引き寄せる。


葵…

私の右に座る葵から右手が私の左頬に添えられ ゆっくり重なる唇。

好きを実感する私は映画より 葵に夢中だった。
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