アサガオを君へ
栄治は何も言わない私たちを見て、フッと笑った。


夏樹に似た笑い方。


「まぁ、いいよ。俺、2学期から兄貴たちの高校に転入するから」


「…え!?」


びっくりして声を上げると、夏樹も知らなかったらしく少し上ずった声で栄治の手を掴んで言った。


「何だそれ。俺、聞いてないぞ」


バシッと栄治は夏樹の手を振り払った。


「俺に触んな。兄貴とは喋る気無いんだよ」


「ちょっと栄治。そんな言い方しないでちゃんと説明してよ」


チラッとこちらを見たかと思うと、私に背を向け栄治は質問に応じないままスタスタと歩いて行ってしまった。


唐突に現れて、唐突に栄治は消えた。


顔もすっかり変わり、性格も多少ひねくれてしまった。


それでも栄治は昔から素直なことだけは変わらない。


言いたいことは包み隠さずに声に出す。


それが良いことだろうが悪いことだろうが、御構い無しに口を開く。
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