アサガオを君へ
次々と車は私たちの前を過ぎていく。


エンジン音はうるさくて、それ以外何も聞こえない。


でも、夏樹の声は違った。


「心。手、つなごう」


決して大きくない。でもはっきりとした口調で夏樹は言った。


信号を見ていた夏樹の目は、しっかりと私に向けられていた。


見られれば見られるほど、痛い。


その痛みが快感でしかない。


ずっと見ていてほしい。


このまま時間が止まってほしい。


私も夏樹を痛いほど見つめた。


真っ直ぐと姿勢を正して、男の子にしては薄くて細い手をダランとたらしている。


私は恐る恐る夏樹の手のひらに、自分の手のひらを近づけた。


指先が夏樹の手の甲に触れたとき、ビクッと痙攣して、手を引こうとしてしまう。


そんな私の手を、少し強い力で夏樹はつかんだ。


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