アサガオを君へ
私の手は、時間が経って乾いてしまった血で汚れていた。


私は首を振った。


「いい。私の血じゃなくて夏樹の血だから」


私の背中から放り出されたとき夏樹は頬に擦り傷ができていた。


きっと夏樹の頬を触ったからついたんだ。


私は自分の手から目が離せないまま言った。


「軽かった」


「…何が?」


私は夏樹の血がついた自分の手で、ぐしゃっと前髪をつかみながら言った。


「夏樹が」


そう、私があのとき転けたのは。


夏樹が重かったからじゃない。


覚悟していたよりも、軽かったからだ。


勢いが余りすぎて転けた。


これが、私の気付きたくなかった事実。


夏樹との気まずくなった生徒会室でも。


今日、走り終わった後に夏樹に抱きしめられたときも。


私は絶対に夏樹を抱きしめなかった。


分かっていたけど気付きたくなかった。


夏樹を抱きしめてしまえば、嫌でも気付いてしまう。


女の私でも、背負えるくらいの軽さ。


普通の女の子よりも細くて華奢な体。


夏樹が『死』に近付いている、紛れもない証拠だ。
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