アサガオを君へ
私たちは銭湯を出て、すぐそこにあるベンチに座った。


夏樹はフルーツ牛乳を飲み終えたらしく、ビンを横のゴミ箱に捨てた。


私は夜空を見上げながら、隣に夏樹がいることへの幸せを感じていた。


そんな私につられてか夏樹も空を見上げた。


今日は星が綺麗に見える。



明日は晴れだなぁ。


来る前に天気予報でも明日は晴れだと言っていた。


星座とかは分からないけど、昔から星空を眺めているのは好きだった。


何かこれだけ広い夜空いっぱいに輝く星を見つめていると、自分の存在がとてもちっぽけに感じられる。


だから私は悩んみごとがあったり悲しいことや辛いことがあると、星空を見上げる。


そうすると、ちっぽけな存在の自分の悲しみや苦しみや悩みなんかが、もっとちっぽけなものに感じられて楽になるからだ。


不意に夏樹が私の名前を呼んだ。


「心」


「なに?」


私は瞬きもせずに空を見つめたまま答える。


すると夏樹は感情の読めない声で言った。


「俺はお前の、俺を普通に扱ってくれるところが好きで一緒にいるから」


私が何も言わないと夏樹は続けた。


「それが俺たちにとって当たり前のことで…俺たちの生きてきた世界だけど、それは俺たちにしか理解できないことなんだよな」


夏樹は昔から作文が苦手だった。


言葉の構成が不器用だった。


自分の考えや伝えたいことは隠さずに話してくれるけど、分かりにくいことが多い。
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