あたしと彼の物語
彼
「やっばー!!遅刻!!!」
あたしは桐沢千歳(きりさわちとせ)
いつもの様に遅刻してます。
間近に見えてきた教室のドアをスパーンと開ける。
「…っおっくれましたぁぁぁぁ!!!」
ううう…みんなの視線が痛い……。
「桐沢。今日は何で遅刻したんだ…?」
「………………。」
『……………………。』
長い沈黙の後、あたしは苦し紛れにこう言った。
「宇宙人にさらわれかけました。」
「そうか、それで?」
「あたしの奇跡の一撃が宇宙人の急所にヒット!!!みごと勝利したのであります!!!」
「もういい。座っとけ。」
「………はい。」
あたしはすごすごと自分の席へ向かう。
コレは毎朝の恒例行事。
毎日遅刻してくるあたしのためにわざわざ言い訳の時間が設けられる。
頭の語彙が少ないあたしはそろそろレパートリーがなくなってきた。
「詩春に虐められたとでも言っておくか…。」
「してないよ、ちぃちゃん馬鹿?」
困った様に笑うあたしの前の席の男の子。
名前は神谷詩春(かみやしはる)。
小さい頃から一緒にいる。
家も近く、いわゆる幼馴染というやつだと思う。
「馬鹿じゃないし、詩春よりマシだし。」
「僕全教科満点…「すいませんでした。」
くっそ、、真面目か!!!
「もー、最後まで言わせてよ…。」
「あ、ごめん。」
詩春は……。
いつもニコニコしてる。
何があったって。
親が死んだって…。
詩春の母は、詩春を産んだ時に亡くなっている。
もともと体が弱く、詩春を産むのも命がけで、詩春の父と結構悩んだらしい。
そして詩春がうまれた。
小さい頃から可愛くて、女の子みたいだった。
毎日お転婆なあたしと遊んで怪我をしたりした。
しばらく経って、詩春がちょうど4歳ぐらいの時。
家に泥棒がはいった。
あたしが詩春の家に遊びに行こうとした時のことだったからよく覚えてる。
詩春の家に行ったら様子がおかしくて、二人で首を傾げた。
貴重品などが全部持ち出されていて、家はもぬけのからだった。