あたしと彼の物語


数日後、犯人は逮捕された。


他の家も襲っていたらしい。




妻がいない。家も強盗に襲われた詩春の父は、詩春の誕生日生命保険に入り、自ら命を経った。



詩春にお金を残そうとしたのかもしれない。

それとも、もう疲れてしまって自殺をしたのかもしれない。



どちらにせよ、その誕生日を境に詩春が笑い続けるようになった。




可笑しくなった。






その後何年間も詩春の側にいるあたしは何もしていない。


隣にいるだけ。





小さい頃から一回も詩春が泣いたところを見たことがない。







あたしは詩春の何なのか。

たまに考えたりもした。



「詩春ー。今日行くわ。」



行くというのは『詩春の家に行く』ということで、もう『行く。』という単語だけで通じるようになった。



「…んー、おっけぇー。」




詩春もあまり深い付き合いはしない方なので、大体おっけーしてくれる。
















「ああっ!あたしのプリン!!!」



「嫌、もともと僕のだし。」




詩春が冷蔵庫から出してきたプリンを頬張る。


でもさー、でもさー。



「ちょっとぐらいくれてもいいじゃん…。」



ぷくっと頬を膨らます。


「…ふふ、しょうがないなー。一口だけだよ?」




「やった!!!」


詩春が差し出してくれたスプーンを加える。





「あっまぁぁぁぁ!!!おいしい!!」


「……そっか。よかったよかった。」




詩春がすっごく嬉しそうに笑う。





「じゃあ僕お風呂洗ってこようかな……







…っ!」



危なっ!!!



なんとかフラついた詩春の背中を受け止める。



「詩春!!?大丈夫!?」



「あぁ、ごめん。大丈夫だよ。ずっと座ってたからフラついたのかも。」



「…もー。気をつけてよね。」





すごい顔色悪い…。


「と、とりあえず寝てきなよ。体拭いてさ。」



「…ん、そうだね。」





素直に言う事を聞くところを見ると本当に体調が悪いらしい。
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