【完】幼なじみのあいつ
「…身体、大丈夫か?」
突然、目の前に現れた翔ちゃんに驚いた。
先程までは自分の家のベランダ越しにいたはずなのに、間近に迫った顔にヒュッと喉が鳴る。
小さい頃はよく、部屋から部屋へと行き来していた翔ちゃん。
そんな翔ちゃんが、私の部屋に入るのはとても簡単な事なのだろう。
分かっていても、それは小さい頃の話し…。
好きな人が目の前にいる…。
戸惑いにコクン…、と頷いて見せた。
フワリと、持ち上がる身体。
翔ちゃんが私を抱き上げ、そして真っ直ぐベッドまで進む。
辿り着いたベットの前までくると、ゆっくりと布団の上へ下ろしてくれた。
以前、保健室でベッドに下ろされた時のような乱暴な感じではなく、どこか壊れ物を扱うようにそっと下ろされた事に…、
胸がくすぐったい---
抱き上げられている時のゆらゆらする感覚と、翔ちゃんの温かさ。
心地良さに、私の意識が徐々に遠のき始める。
布団のかけ方も優しくてまるでお姫様になった気分…、と思いながら薄っすらと瞳を開け翔ちゃんを見た。
「…ん、あり…がと……、しょ………」
翔ちゃんの名前を言おうとしたけれど、もうダメ…。
眠気には勝てないみたい。
「…鈴」
まだ意識はホンの少しだけあったけれど、私の意識が完全に手放したと思った翔ちゃんは私の頭を徐に撫で始めた。
頭を撫でる手がなんとなく、保健室で見た夢の中の人と同一人物のような気がするのは気のせいだよね?
「…女の子が階段から落ちてんじゃねーよ」
頭に触れていた手を、そっと離した翔ちゃん。
もっと、撫でて?
その手に擦り寄ろうとした時、ゆっくりと何かが私に近づいてくるのに気付く。
頬に柔らかくて温かいものが、そっと触れた。
「…鈴、俺は……ま………、…き」
翔ちゃんが私に何かを言ったようだったけれど申し訳けないことにその時私は、夢の中に完全に入ってしまっていた。