【完】幼なじみのあいつ
私がクッションに座ったのを見計らって、亮ちゃんは階段を下りていった。
あ、行っちゃった---
何も言わずに部屋を出て行った、亮ちゃんの閉めた扉をジッと見る。
もしかして、飲み物を持ってきてくれるのかな?
そんな事を考えながらもう一度、周りを見回してみた。
本当に昔の面影が全くないなぁ。
まるで男の子…と言うより、男の人の家にお邪魔しているみたい。
ドキドキする---
亮ちゃんの話しって何かなぁ。
………あれ?
私、このまま二人っきりになってもいいのかな?
いつもなら一緒にいると安心する亮ちゃんなのに、こんなに大人っぽい部屋にいるとまずいんじゃないかな?って思ってしまうのは亮ちゃんの事、信用してないから?
ダメダメ…、
亮ちゃんは大丈夫。
なんて自問自答していた時、カチャッとドアが開き亮ちゃんが部屋へと入ってきた。
「待たせてスマン」
盆に乗せていたグラス二つを、テーブに置いていく亮ちゃん。
中身はオレンジジュース。
私の好きなジュースだ…。
きっと優しい亮ちゃんはその事を覚えていて、これを持って来てくれたんだろうな。
「ありがと、亮ちゃん。私の好きな飲み物、覚えていてくれたんだね?」
そう言うと亮ちゃんはちょっと照れくさそうに横を向きながら、オレンジジュースを飲んだ。
お互いにジュースを飲み一息ついていたところで、亮ちゃんがコトリ…とグラスを置いた。
「…鈴、階段から落ちた本当の理由を聞きたい」
階段?
突然、どうしてそんな事を聞くの?
本当の理由って…?
うっかり落ちたっていう理由だけじゃ、亮ちゃんは信じてくれないの?
目を見開き亮ちゃんの真意を探ってみるが、表情のない瞳で見られては私にはよく分からない。
取り合えず、ごまかすしかないか…。
早紀ちゃんに突き落とされた…なんてそんな事言ったら、大事になってしまうし。
「だから、私…『本当の事を言って欲しい』あっ……」
私の言葉に被せてウソは許さないと言う、強い口調で言った亮ちゃん。
どうしよう?
言わないと、この家から帰してくれそうにない勢いで困った私は眉を下げる。