【完】幼なじみのあいつ
「お前ら、いつまでそうしてる気?一応ここに彼氏が居るんだけどさー」
ぶっきら棒な声が、背後からかけられた。
翔ちゃんの声だ!
急いで亮ちゃんから離れようと、両手を亮ちゃんの胸に置いて思いっきり押したけどビクともせず今だ抱きしめられたまま。
亮ちゃん、離して~!
見上げれば亮ちゃんは私の肩越しから顔を上げ、翔ちゃんを見ていた。
「小さい頃からずっと好きだった鈴への気持ちを無理やり忘れようとしてるんだ。これくらいは我慢しろ…」
亮ちゃんの言葉に翔ちゃんはため息一つこぼし、見なかった事にしてやると言い残すと、またボールを打ちに行ったのか遠ざかる足音が聞こえてきた。
その足音に反応し、私は後ろを振り返る。
翔ちゃんの後姿から、特に怒っているようには見えない。
ホッと、安堵の息を零す。
「鈴、ずっと好きだった。幸せになれよ?」
「亮ちゃん、ありがとう…」
その言葉にまた、私の涙が止まらなくなった。
後から後から零れ落ちる涙を、どうにも止められない。
どんな気持ちで、その言葉を言ったのだろう?
そう思うと涙が自然と出てしまったのだ。
でも私の為に…、
私の幸せの為に言ってくれたのだ。
私だったら好きな人の為に、そんな事が言えるのだろうか?
ううん、言えない。
思っていてもそんな事、辛くて言いたくない。