【完】幼なじみのあいつ


「ありがと…、亮ちゃん。本当にありがとう」


「………」



涙でハッキリとは見えない亮ちゃんに向けて、笑顔でそう言った。


精一杯の私の言葉に亮ちゃんは、何も言わず黙って私を見ている。




涙に濡れる顔をこれ以上見られるのが恥ずかしくなった私は、亮ちゃんの胸に自分の耳をペタリとくっつけてみた。


ドクンドクン…と、鳴り響く鼓動が優しく奏でる。




少しして、微かな振動が感じられた事に気付いた。



もしかして亮ちゃん、涙いてるの?




微かに震えている身体を抱きしめながら、私は亮ちゃんの気持ちを精一杯受け止めようとギュッと強く抱きしめた。


本当にゴメンね、亮ちゃん。




”好き”…と言う気持ちは、一つしかなくて。


それは翔ちゃんにしか、向ける事が出来なかった。




亮ちゃんは大好きだよ?


でもそれは、翔ちゃんに対する”好き”とは違う意味の好き。




幼なじみとして好き…と言ったところで今の亮ちゃんには全く嬉しくないかも知れないけれど…、


亮ちゃんがいつか幸せになる事を、心から願っているからね!




しばらくそのまま亮ちゃんと抱き合っていたら、亮ちゃんがそっと私から離れていった。




「鈴、さよなら」


その言葉に、ドクン…と胸がなった。


私を好きだった思いに対する言葉だと言うのは分かる。



それでも”さよなら”…と言われたら、まるで今生の別れみたいで寂しいじゃない?



でもその言葉は亮ちゃんにとって、私に対する思いと決別する為の言葉だと言うのは分かった。



だからその言葉を聞いた私は、ありったけの気持ちを込めて笑顔を向けた。





好きになってくれてありがとう、亮ちゃん---








「…話は終わったのか?」


私たちのすぐ傍にあったベンチに腰掛けていた翔ちゃんから話しかけられ、びっくりして身体が跳ねてしまった。


遊んでると思ってたのに、いつから傍にいたのだろう?



恥ずかしくなった私の顔は、真っ赤に染まった。


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