【完】幼なじみのあいつ
遠ざかる翔ちゃんの背を見送っている内に、私の目からはぽろぽろと涙がこぼれてきた。
何故、泣いているのかは分からない。
悲しいのか…、
辛いのか…、
…それとも翔ちゃんにとって、私が傍にいる事が当たり前だと思ってくれた事が嬉しかったからなのか………。
「…すず」
亮ちゃんが、優しく私の名前を呼ぶ。
でも今の私は翔ちゃんの事で頭が一杯で、亮ちゃんに返事が返せなかった。
だから気付かなかった、亮ちゃんの発した一言を。
その言葉はあまりにも小さくて、私の耳には届かなかったのだ。
・
・
「あいつも鈴が好きなのか………」
亮平はすぐに気付いたのだ。
翔の鈴への気持ちを。
翔はまだ、自分の本当の気持ちに気付いてはいない。
もし鈴に対する自分の思いに気付いたら、きっと2人は上手く行くんだろう。
気付くな、翔---
そう願うことしか、亮平には出来なかった。