絡繰りに潜む誘惑

世界はこの世に幾つも存在する。
異世界があり、世界がある。
そして、ここはその世界の中の1つの異世界。
魔力が満ち、人間と魔法使いが共存する世界。
天使、悪魔も何百年か前には存在していたが、今はもう存在しないものとなっていた。


†-†-†

時は夕暮れ。空は青空の名残と夕陽が幻想的な景色を創りだしている。


その幻想的な景色を1人の青年が眺めていた。
青年が居るのはメサイヤの街の外れにある小高い丘に佇む教会の墓地。
その一角に青年は立ち尽くしていた。


「父さん、母さん。また来るから。」


目の前に広がる空から十字架の墓石に目を向け直し、青年は言った。
と、同時に墓石に背を向け走って丘を降りて行く。


(父さん、母さん。何でだよ…ッ!!…何で)

青年はどこか寂しげな悲哀の目をしていた。

一気に丘を下り街の入り口を抜け豪勢な住宅街を横切り、裏路地に入る。

さっきまで幻想的な景色を醸(かも)し出していた空は、今は暗い藍色をしていた。


タンタンッ、とレンガ畳の道を走る青年の足音が響いた。
目先の十字路を左に曲がれば青年の家とは言い難い小屋がある。


青年が十字路を曲がった時だったーー


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