絡繰りに潜む誘惑
すると、不意に誰かに呼び止められた。
「セイエ!!おい、セイエ」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには見るからに気前の良さそうな男が手招きしてセイエ、所謂俺を呼んでいた。
「おっちゃん!!」
彼はこの商店街でパン屋を営んでいる人だ。
「セイエ、お前朝飯まだだろ?朝一番で焼けたパンが工房にあるから食ってけ。今から仕事なんだろ?」
「うん。いつもありがとおっちゃん!!」
親が居ないセイエにとってパン屋のおっちゃんは親のような人らしい。
工房へ入ると、様々な種類のパンが空腹を擽る香りをたてていた。
形が悪くて商品として店に出されるとこのないパン。
悪いのは形だけで、味は大層なものだった。
「そう言えばセイエ、お前昨日の情報屋の話聞いたか?」
メロンパンに噛じりついていた俺は首を傾げた。
「何それ?」
「何でもよ、あの情報屋がヤバい事知ったらしくて、それに関わる魔法使いにこないだ呪で殺されたんだと」
「はぁ?またとんでも無い奴に殺られたね」
もぐもぐとメロンパンを口に詰めこみながら言った。
「お前も一人暮らしなんだから気を付けろよ?魔法は俺の専門外だからな…」