color【完結】
red
ここにいるとき以外のアマネさんを、僕は何も知らない。きっとアマネさんも、僕のことを知らないのだろう。
その距離が、心地良い。
だけど、突然にそれは訪れた。
「おい。さっさとシネって言ってんだろ。」
日常的に投げつけられる言葉の暴力に、僕はもうその言葉の意味もわからなくなってきていた。
シネ?シネってなんだ?彼らの言葉には、なんの重みもなかった。
「…無視か?ずいぶんと偉くなったもんだな」
「鬼塚にでもヤらせればいいんじゃね?」
「馬鹿、鬼塚さんはこんなやつ相手にしねぇよ」
「お前しか会ったことないんだし、俺らにはわかんねぇよ」
「鬼塚さんは、強いんだぞ」
鬼塚さんとは、誰だろう。
彼らの尊敬する人らしい。
彼らの上に立っているような人間が、温かな人なわけがない。きっと、冷たくて氷のような人なんだろう。
そこまで考えて、あの、温かな空間を恋しく思った。