すれちがえ
「はあっ?!」

穂の声が、コンクリートに反射する。

「ピッチはいいとして、Bからのコンビネーションが、汚い。」

すぐ後ろに、綾香と上橋さんの気配がする。

ぎゅっと息を詰めて、男性を睨み上げる穂。

「エファクターちゃんと使ってないでしょ。ベース。」

西日の影が、男性に重なるほどの距離につめより、穂が言った。

「…使いましたよ。

何で貴方にそんな事いわれないけんの。」

「…穂?知り合いの人?」

「違う。知らん。今ここで会ったおじさん。」

男性が、首をポキリと鳴らした。

「ボーカルの声といい、目障りな一生懸命さが痛々しいね、君ら。」

馬鹿にしたような声で言い、歩き去ろうとする。

後ろで、2人が絶句したのがわかる。

綾香が、息を呑む音がした。

上橋さんが、息を吸う音もした。

「俺た「Sukaluってバンド知ってますかっ!!」

その男子が足を止め、半分振り返る。

「私の、」

13歳の可憐な少女が、震える声で詰め寄る。

「大好きなバンドなんです!!」

訳が分からないのか、彼は何も言わない。

「いつかきっとそこに入って、貴方の事言ってあげます!!!」

後ろの2人も、何も言わない。

「目障りって!!!!」

そして背を向け、泣き落ちる夕日に向かって、大股で歩き去った。

「…。」

「す、穂!」

慌てて後を追う、綾香と上橋。

残された男性は、真っ赤に染まった坂道のその先を、じっと見ていた。
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