すれちがえ
2
「おい、大ニュースだぜ!!聞いてくれよ!いいか、おい、数馬。こっち来いって。ヤバいぜ、マジ。いいか、聞いて驚くなよ。」
長い前振りを置いて、汗だくになってた涼が、低い声で言った。
「俺達の…デビューが決まったぁぁぁぁッ!!!」
誰も何も言わなかった。
正確には、言えなかったんだ。
ああそれはもう、あの日ほど、心臓が脈打った日は無かった。叫んで、笑って、叩き合って、あの日の四人で、拳をつきあわせたんだ。
「勿論まだまだマイナーだけどな!だけど!」
「こっからだろ!!」
涼の話を遮るようにして、数馬が乾杯のグラス…もといなっちゃんのオレンジ味を、天高く掲げた。
「楽しみね、色んな事が…!!」
蒼が、机の上のオーディション結果を、眩しそうに見た。
「歌おうよ!」
ベースをとった声が、狭い軽音学同好会の部室に響く。
10歳の、初々しい少年少女が、織りなす一生懸命な音。
それは初夏を彩るように、青い空に消えていった。