ツレない彼の愛し方【番外編追加】


「だから、大事なのは弟の幸せなの。お前が考えてるほど、朽木は弱かねーよ。お前の報道で少し騒がしかったけど、あれだってあのお嬢ちゃんの仕組んだことだろう。金とツテで記事を書かせたって話だぜ。朽木は、じいちゃんや親父が築いていたものはしっかりしてる。俺だって朽木の事を誰よりも考えてるつもりだ。心配するな」

そう言って、背中を丸くして今にも消えそうな父さんを一瞥する。



「もう!隆ちゃんは何もわかってないんだから。小さい頃は和泉ちゃん、和泉ちゃんってうるさいくらいにまとわりついてきたのに、大人になるにつれて勝手に距離を置いちゃって。淋しいったらありゃしない。」



「それは…」


「隆ちゃんを責めてるんじゃないのよ。母親を亡くして淋しかった私に近所に住んでいた良子さんがいつも可愛がってくれていた。亡くなった母はね、病弱でいつも病院にいたから、愛情に餓えていたところもあったのね。母が亡くなって父さんも尚彦も沈んでいた時に、そっと優しさと元気をくれていたのは良子さんだったわ。思春期に母親を失った私には良き相談相手で良き理解者だった。隆ちゃんと変わらず私達に愛情を注いでくれた。だから父が自然に良子さんに惹かれる気持ちが理解できて、母も亡くなってから何年も経ったころ、再婚って話になった時、すごく嬉しかったの。
あのまま子ども達に対してズレた父親とちゃらんぽらんな弟だけで暮らすのはしんどかったから。」



「和泉ちゃん?ズレた父親って僕のこと?」



「ねえちゃん、ちゃらんぽらんな弟って俺?!」



「他に誰がいるのよ」



「「はぁ…」」

父と兄さんは同時にため息をついた。



「だから優しい母と賢い弟が出来て私は本当に嬉しかったし、精神的に支えられていたの。なのに隆ちゃんはどんどん距離を取って…淋しかったのよ」



「すみません」



「どうせ、会社のこととか省吾のこととか考え過ぎてたんでしょ?」



「・・・・・・・・・・・」

兄の一言に無言になる。図星だった。



「なんで仕事以外はどこかズレてるのかね。そういうところ、親父にそっくりじゃねえか!」



「えっ?」



「だから、親父に似てるって言ってんの」

嬉しかった。血のつながりがない父さんに似てるところがあると言われたことが…



「ありがとう・・・」

思わず出た素直な言葉。



「あん?褒めてねえよ。」

少し照れたような兄さん。



「え~、僕に似ちゃダメってこと?」

その会話に割り込んで来る父さん。



「悪いとこが良く似るんだな」

父さんに容赦なく浴びせる言葉。



「あんただって、そのちゃらんぽらんなところ、お父さん譲りよ」

姉さんが的を得る一言。



「おい、待て、嘘だろ!」

まるで外国人がやる「Oh!No!!」大袈裟に両手を広げて肩を上下させる。



「でも僕から見れば、尚にいちゃんだって隆にいだってお父さんみたいな尊敬できる経営者だと思ってる。二人の仕事に対しての姿勢や取り組み、信念を目の当たりにして、タイプが違う兄だけど僕はこの二人の弟だって誇りに思ってる」



「おお、うちの末っ子坊主はわかってるね」



「省吾・・・何もでねぇぞ」



「え~、ボーナスアップとか無いんですか?」

母さんも姉さんも笑ってる。二人も血のつながりは無いけれど、その表情はとても良く似てる。
父さんは…まだ少しだけしょげながら小さく笑っていた。



「さて…と…だいぶこじれてるみたいだけど、お前はもう何も考えず、決着をつけてこい。何も考えなくていい。あとのことは俺たちに任せろ。それが家族だろ?違うか?」

「...ありがとう…」
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