ツレない彼の愛し方【番外編追加】
兄さんは昔からそうだった。
いつもは軽いトーンでふざけている人に見られがちだけど、ホントは男気があって頼れる存在だった。事態を把握した省吾があっ!と何かを思い出したように口を開く。
「隆にい、そう言うことならまず響さんを・・・響さんを探してよ。早く迎えに行ってあげてよ。」
「省吾、お前…知ってたのか」
「わかるよ。みんなも心配してる。口には出さないけど、響さんがいなくなったこと隆にいと関係があるってみんな気が付いてる」
「そっか…心配かけてるんだな。ごめんな。でも…あいつどこにいるのか…電話にも出ないんだ。亮介に聞いても『元気にしてますから』と取り合ってくれない」
思わず情けない声を漏らしてしまう。
「響さんって、可愛くておもしろくて、優しくて涙もろい、あの響ちゃん?」
「えっ?なんで兄さんが?」
なんで兄さんが響を知ってるんだ?ああ、事務所に来た時にでも逢ったのか…
「隆ちゃん、響ちゃんのこと、どう考えてるの?」
えっ?姉さんまで?
「響さん、可愛い娘さんじゃない」
母さんまで…どうして?
「ねぇ、ねぇ、響さんって誰?なんの話?」
父さんだけはのけ者か?
「なんでみんな響を知ってるんですか?」
不思議な気分だった。今、どこにいるかもわからない誰よりも一番逢いたい響のことをみんなが話題にしている。
「隆ちゃんがね、綾乃さんのことをこじらせている間、どんなに辛かったか...ちゃんと考えて。自分のことに精一杯だったとは思うけど、その間、響ちゃんが一人で抱えて来たものを。」
「えっ?」
姉さんは真剣な顔をして自分を見た。
「修二くんがね、最初に気が付いてうちに連れて来てくれたの。たぶん、隆ちゃんと関係があるってわかってたのね。」
「姉さんちに?」
「来たのは病院よ。パパが診察してくれたのよ」
「えっ?」
「響ちゃんはなかなか父親を教えてくれないんだけど、そろそろ教えてくれるかなと思って…」
そう言って、応接間と繋がってる母お気に入りの部屋の扉を開けた。
そこは日当りが良く、温室のようになると母が花をたくさん育てている部屋。庭が一望でき、良く姉とお茶を飲みながら座っているお気に入りの部屋。その部屋の開けた扉に立っていたのは、今一番逢いたかった響だった。