ツレない彼の愛し方【番外編追加】
「お母さん、ただいま」
部屋で待っていた女性に和泉さんが声をかける。
「和泉ちゃん、お帰りなさい。彼女が響さん?」
キレイな年配の女性は優しい笑顔で私の両手を包む。
どこか懐かしさを含めた温かい瞳を私はどこかで知っている。
「はじめまして。隆之介がいつもお世話になってるそうね。ありがとう」
もしかして早瀬のお母様。
二重の瞳がそっくり。年のせいか目尻が少し下がってるから鋭い早瀬の視線より随分と優しさを感じる。
「はじめまして。社長にはいつもお世話になっています。進藤響です」
「ふふふ、そんなに緊張しないで。事情は和泉ちゃんから聞いています。隆ちゃんが甲斐性なくてごめんね」
「え?・・・あの・・・」
私がどこまでどう話が進んでいるのか理解できないでいる。
「だいたいは話しちゃった。患者さんの守秘義務はあるけれど隆之介は家族だし…響ちゃん…今まで黙っててごめんね。隆之介は私の弟よ。だから今日はきちんと話しておきたいの」
そう言って、お母さんに変わって和泉さんが私の手を取り、まっすぐに視線を向ける。
「赤ちゃんの父親は隆之介よね?」
もう、わかってるわよ、とでも言うように和泉さんが訊ねる。
「・・・はい。すみません」
どうしても腰が引けてしまう。
「なんで謝るの?悪いことしてないでしょう。私もお母さんも嬉しいの。」
そう言って微笑む和泉さんに少しホッとする。
「隆ちゃんにやっと心を許せる女性(ひと)が出来たと思うと...。本当に嬉しいの」
そう言って目尻を緩ませる。
「隆ちゃんね、昔から人に甘えるのが下手で...人と距離を置くところがあったから。今までいた恋人だって本当に付き合ってるのかしら?と思うくらい冷めていたのよ」
そう言った後、すぐに和泉さんは苦笑いをする。
「ごめん...。響ちゃんに言う話じゃないかも…」
すると社長のお母さんが続いて話し出す。
「私ね、あの子が3歳の頃に主人を事故で亡くして、淋しい想いをさせて来ちゃったみたい。」
淋しそうな目で遠くを見てる。
そんなお母さんにそっと寄り添い、話を続ける和泉さん。
「お母さんはね、女手一つで隆ちゃんを育てていたの。小さい子を一人で育てるって…大変なことなのよ。響ちゃんも一時は覚悟したんだもの、少しはわかるわよね?でも実際は想像を遥かに超えるの。
お母さんもとても苦労したと思うわ。当時、小さい隆ちゃんを育てながらスナックで働いていたの。そこで私の父と知り合った。女手一つで頑張ってるお母さんを放っておけなかった父が、うちで働くようにと説得して、その頃、私とすぐ下の弟の面倒を見てくれていたのよ。
私達も母を病気で亡くしていたから、父が私達のことを心配してね...
でもそれは父の口実。
最初からお母さんに惹かれて強引に連れてきたんだろうなって後々わかったわ」
そう言って和泉さんはお母さんに微笑む。
お母さんもどこか照れていながら、優しい眼差しで和泉さんを見ていた。
血のつながりがないはずなのに、二人の女性は少し似ている。
本当の母娘と言っても頷けるほど。
「母親を失った悲しみがいつまでも癒えない私も弟も最初は戸惑ったけれど、いつの間にか、お母さんの大きな愛情に包まれていた。隆ちゃんも懐いてくれてね、あの頃は可愛かったの…和泉ちゃん、和泉ちゃんってずっと付いて回って、甘えん坊で...」
「社長が?!」
「そうよ、人懐っこくて、可愛かったんだから。今じゃクールを装ってるけど、本当はすごく甘えたがりだったのよ。今だってもっと甘えてくれたらいいのに!」
と言って唇を尖らせた和泉さん。
キュートだなと思って見ていると、私をじっと見て話を続けた。