ツレない彼の愛し方【番外編追加】
タクシーの中でずっと無言のままだった。
早瀬はイライラし、眉間にシワを寄せたまま黙っている。
私の肩には、男物のジャケットが掛けられている。
それを見た途端、更にいらだちを見せていた。
私と言えば整理できないまま、気持ちがぐちゃぐちゃになってる。
最初に口を開いたのは早瀬だった。
「どうして修二くんと一緒だったんだ。」
「送ってくれるっておっしゃって。」
「ホテルにか?」
「部長の職場だっていうから。」
「職場だからってのこのこ付いて行ったのか!」
「・・・・。」
事の成り行きを説明することが無意味に思えて黙った。
進行方向だけを見て、無言のまま。
パーティ会場を飛び出したあの時は何も考えられなかった。
綾乃さんと早瀬が一緒にいたことを思い出したら、どんどん悪い方へと想像してしまっていた。
「なぜ黙ってるんだ。
そんな格好で、フラフラしてんなよ…」
早瀬の言葉の語尾がやけに弱々しく聞こえたので、咄嗟に早瀬へと視線を向けた。
さっきまで怖い顔をしていたのに、今は、心配そうに私を見つめてる。
「すみません。」
早瀬のせつない表情がじんと伝わって来る。
どうして良いかわからずに、俯いてしまった。
「足が痛むのか?さっき、歩きずらそうだったから。」
「履き慣れないハイヒールだったので靴づれしちゃいました。」
泣きそう…
でも涙がこぼれる前にタクシーがマンションに着いた。
タクシーをぎこちなく降りようとすると、先に降りていた早瀬が腰を支えた。
その暖かさに、安心感に、涙が溢れそうだった。
グッと唇を噛んで、涙をこらえる。
「そんなに痛いのか?」
「大丈夫です…」
早瀬には涙の意味がわかっていない。私がどうして泣いているのかなんて。