ツレない彼の愛し方【番外編追加】


「"岩瀬"のお弁当です。」

岩瀬とは会社近くにある小料理屋。
夜は小料理屋だけど、昼間は定食を出している。
はいつも一種類で日替わり。
女将さんは「昨日の残り物」と笑って言うけれど、絶対、ランチ用にもしっかりと用意していると思える程の絶品定食。それをお弁当にしてもらったと美咲ちゃんが言う。


「女将さんに響さんが食欲無さそうだって言ったら、消化に良いものや薄味のもので食べ易くしてくれましたよ。」

そんな美咲ちゃんと女将さんの気遣いに少し弱っている心が大きく揺れる。
鼻の奥がツーンと痛くなって、視界がぼやけて来る私に慌てて美咲ちゃんが駆け寄って来た。
俯いた瞬間に一粒零れてしまった涙は、誰にも見られなかったかな?


「響さん?どうしたんですか?どこか具合でも悪いんですか?」

私の背中をさすって心配そうに顔を覗き込む。岡野も少し驚いた顔で私に視線を向ける。


「なんか嬉しくって。美咲ちゃんや女将さんの気持ちが。この年になるとこんな風に心配されると心に刺さるね~。岡野のクリーム玄米なんとかとは大違い。」

私はその場の雰囲気を変えようと慌てて口を開く。


「はぁ?響、それ返せ。オレの好意を今すぐ返せ!」

岡野が私の挑発に乗ってくれ、さっき投げた好意を奪い返そうとしている。
美咲ちゃんは大人げないと岡野の手をピシッと叩いていた。
穏やかな雰囲気が戻って来たところに、午前中に打合せで出掛けていた早瀬と朽木くんが戻って来た。



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