ツレない彼の愛し方【番外編追加】
「お帰りなさい。」
「お疲れさまです。」
「何かあったか?」
早瀬が外出から戻って来るといつもの決まった一言。
「伊藤印刷からお電話がありました。折り返しお願いします。」
美咲ちゃんが伝える。
「サンキュ。」
と自席に付き、一息つく間もなくカタカタとキーボードの音を響かせる早瀬。
視界に入る範囲で早瀬の様子を感じ取る。
今までに無いくらい早瀬を意識している自分。
それほど吉澤綾乃の存在が私を動揺させている。
(はぁ…ダメだ。)
ちょうど美咲ちゃんも私と同じお弁当を買って来て休憩室で食事を取ろうとしていた。
あまり食欲は無いけれど、美咲ちゃんの好意を無駄にもできないし、帰社した早瀬から少し距離を置きたかった。
早瀬を見ると夕方からアポを取っている綾乃さんの存在をますます大きくさせるから。
「美咲ちゃん、私も一緒に…」
「あっ、じゃ、お茶入れますね~。」
休憩室に半ば逃げるように席を立った私をじっと見据えている早瀬がいたことなんて知る由もなかった。