ツレない彼の愛し方【番外編追加】
約束の8時よりも30分早く垣内部長と待ち合わせしているコーヒーラウンジに着いた。
少し早いけれどコーヒーを飲んで、本でも読んでいよう。
ふかふかのソファが気持ちいい。
深く腰をかけクッションに身を預ける。
本を読みながら、活字がぼやけて見えたり、ハッキリ見えたり…。
うとうと…うとうと。なんか気持ちいいなぁ。
「響ちゃん、響ちゃん…?」
遠くから誰かが呼んでいる。その声のトーンがハッキリ聞こえて来た時、目が覚めた。
「あっ!」
垣内部長の端正な顔が私を覗き込んでいて、心臓が飛び出そうになる。
「えっ?あっ!はっ?」
ビックリして飛び上がる。
「あ、大丈夫?気持ち良さそうに眠ってたね。」
部長は面白そうに手の甲で口を抑えて笑っていた。
「すみません。いつの間に眠っちゃったんだろう。でもそんなに笑わなくても…。」
なんか、失礼じゃない!?
「ごめん、ごめん。あまりにも無防備で可愛くて。」
「はい?口がお上手ですね。あ、これ。ありがとうございました。」
私は思い出したように部長にジャケットを渡すと、「ありがとう」と言って、そっと受け取った。
「わざわざクリーニングに出してくれたんだ。ありがとう。お腹空いてない?ここまで来てくれたお礼にごちそうするよ。」
あっ…お礼。お礼をしなきゃいけないのは私の方なのに何も持って来てないって。どこか上の空だった自分が恥ずかしい。
「すみません、お礼をしなきゃいけないのは私の方なのに…うっかりして何も持って来てなくて。また改めてお礼をします。」
「そんなのいいよ。でもさ、せっかくだから食事に付き合ってよ。」
「・・・・」
「お礼してくれるんでしょ?じゃ、行こう。食べたい物はなんかある?」
少し強引だなと戸惑いながらも返事はする。
「あまり食欲が無いんです。」
「う~ん、少し顔色が悪いのはそのせいかな?食べ易いものがいいね。」
「あの、だからお食事は…」
やんわり断ってるのにな…
「ジャケットのお礼でしょ?」
そうやって笑う部長の笑顔はキラッキラする王子様スマイル。
食事くらいなら…帰ってひとりでいてもろくなことを考えないと思うし。
「・・・わかりました。お食事だけなら。」
「だけならを強調するね。取って食ったりしないから安心して。今はね。」
「えっ?」
「ううん、独り言」
また王子様スマイルだ。
「さぁ・・・」
そう言いながら立ち上がった部長は私の右手を取った。
「 一人で立てます。」
慌てて私は手を引っ込める。
でも今は少し強引な方がありがたい。
「食欲が無いなら日本食がいいかな。」
とエレベーターを待ちながら部長が独り言のように呟いている。
エレベーターが来ると、私の背中に手を当て、少し強引に先に乗るように促す部長。私はエレベーターに乗り、扉方向へとクルっと向きを変える。
その時だった。