ツレない彼の愛し方【番外編追加】


目が覚めた時、時計の針は朝の5時を指していた。
思いの外、ぐっすりと眠れて気分は良い。
このまま帰ったらシャワーを浴びて仕事に行けるだろう。


そっと身を起こし、ベッドから抜け出す。
寝室の扉を開けると、ソファーで横になっている部長が見えた。
まだ眠ってる。起こすのも申し訳ないけれど、何も言わないで帰るのも失礼だよな。


考えながら顔をのぞき込む。
きれいな顔。女性が放って置かないよな。
と思った瞬間、私の腕が引っ張られ、バランスを崩しながら部長の胸の中へと倒れ込む。


「きゃっ!」

私が慌てて身体を起こそうともがくけれど、部長の腕が私の背中に回って強く抱え込まれる。


「おはよう。良く眠れた?」

部長の顔が近い。


「あの~・・・離して下さい。近いです」

私がもがいていたら、ぱっと力が抜けて急に離された。
バランスを崩して今度は後ろに転びそうになる。
それを防いでくれたのも部長が私の腕をしっかりと掴んでくれていたから。


「もう!悪ふざけし過ぎですよ!!!!」



「ん!?もうだいぶ良くなったみたいだね。」



「お陰様で。ご迷惑をおかけしました」



「迷惑だと思ってないよ。この事を恩着せがましく君に迫るつもりだから」



「はい?冗談ばかり言ってると肝心な時に本気にされなくなりますよ。」



「君にはいつも本気でいるつもりだけど。」



「はい、はい!」


私は部長の悪ふざけに軽く返事をした。
ところが部長は私の腕を掴んで、じっと私と視線を合わせたまま。
気恥ずかしくなり、私から目をそらす。


「クックックック・・・」

次の瞬間には部長の肩が震えて笑ってる。


「もう!またふざけて!!」

私が部長から離れようと体を起こすと、部長もそのまま起き上がり、座ったまま私を膝に乗せるような形で後ろから抱きしめた。


「部長?!」


「シー!」と人差し指を口元に立てて何も言わないでと目で合図をする。
部長が私のお腹のあたりで後ろから回した腕を交差させた。
まるで後ろから抱っこされているように。
驚き過ぎて動けない。けど無理...
もぞもぞと体を動かしてそこから離れようとする。


「あっ・・・動いちゃダメだよ。」

咄嗟に部長がそれを止める。



「えっ?」



「ふ~…響ちゃんは・・・ホントに無防備だね。」



「えっ?どこがですか?」

と勢いよく、部長の方へ振り返る。半返りする体が部長と嫌でも密着する。



「はぁ・・・だからダメだって。」

半分諦めたようにため息をつかれた。



「あっ・・・・。」

お尻に固い何かが当たってる。
部長が反応しているんだ...って、わかってしまった。
恥ずかしさで顔が赤面する。



「少しだけこのままでいいかな?

襲われたくなかったら、少しだけ我慢して。」

そういって後ろから私の肩におでこを乗せて「ふーー」っと深く息を吐く部長をどうしていいかわからずに言われたとおり、彼の腕の中に収まったまま。


首にかかる部長の吐息がくすぐったい。
時折、イタズラに首筋にチュっとリップ音を立てる。ビクっとする私の動きを面白そうに笑ってる。それを阻止しようとすると「動いちゃダメ。」というから仕方なく動きを止めていた。


最後のリップ音が響いた時、チクっと痛みが走った。それから数分が過ぎ、黙ったままの部長に声をかけようかどうしようか悩んでいるうちに修二がクルッと私の体の向きを変えた。



「はぁ…もう大丈夫。

ごめんね。驚いたでしょ?でも響ちゃんがいけないんだよ。男の生理現象をまったく無視して、無防備に近寄ったりするから。

次はもう我慢しないからね」


あのきらきらした王子様スマイルで私のおでこに・・・


キスをした。


慌てて部長から離れた。


驚きすぎて固まってる私をまったく気にもせず、部長は「送っていくよ」と立ち上がった。


それは困る。こんな時間に自宅に帰るだけでも後ろめたいのに、部長と一緒だなんて大問題だ。それにホテルの従業員にも会うだろうし、絶対に一人で帰りたい。


「タクシーで帰るので大丈夫です。」



「遠慮しないで。僕が送って行きたいんだから」



「ダメです。絶対に無理!」



「無理って?早瀬さんが気になる?」



「・・・・・・」



「ふ~ん、図星か。なら、余計に送り届けたいね。ちょっと待ってて。」

少し意地悪な微笑みを残し、洗面所に消えて行った。


逃げるなら今しかないと思った私は、すぐにバッグを手に取り、部屋を後にした。とにかくタクシーに乗らなくっちゃ。それに部長ったらなんでキスなんてするのよ?なにを考えてるのか。


正面玄関を出ると客待ちしているタクシーは2台。
ちょうど1台目のタクシーの扉が閉まり走り出すところだった。
2台目のタクシーが私の前に車を滑り込ませた時、後ろから誰かに腕を捕まれた。


「きゃ!」

咄嗟に振り向いた視線の先にいたのは・・・


「社長!」

早瀬だった。


「来い!」
私は引きずられるように早瀬の車に乗せられる。
早瀬は無言のまま、車が急発進した。



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