ツレない彼の愛し方【番外編追加】
あの朝帰りの日から3日が経った。
その間、どことなく早瀬の態度が優しく感じられる。
仕事が終わると必ず私の部屋に来て、ビールを飲みながら、たわいもない話をしたりレンタルしてある映画を観たり…そして、そのまま泊まる日が続いていた。
朝になると一旦、自宅へ戻り、身支度をしてからまた会社で逢う。
穏やかに流れる時間が嬉しい反面、どこかに不安がまだ残っていた。
あれから綾乃さんの事がどうなってるかわからない。
その不安は、私達の曖昧なこの関係だとわかっている。
今日…今夜、早瀬にちゃんと聞こう。
いつまでもこうしていたってダメだ。
もちろん怖い。
けれど、もう自分の気持ちがどうにもならない。
早瀬を好きで、どうしようもなく膨れ上がった気持ちが溢れ出して来てしまう。
この5年間で、私は早瀬のことを憧れから、かけがえの無い存在になってしまった。このままズルズルと関係を続けていても先が見えない。
今夜、ちゃんと聞こう。
シャワーを浴び終わった早瀬がベッドに腰を下ろし、頭をタオルで渇かしていた早瀬の隣に私も腰を下ろす。
「ん?」
ベッドのくぼみで少し傾いた早瀬が仕事では見せない無邪気な顔で微笑む。
時折見せる、少年っぽいその顔が私は好きだ。
「どうした?」
「社長…聞きたいことがあります。」
「なんだ?改まって。」
早瀬がタオルを動かす手を止め、私の目をじっとみつめてくる。
「社長ににとって私はどういう存在なんでしょうか?」
少しの不安と、大きな期待で勢いに任せて聞いてみる。
しばらく考えを巡らせている早瀬は真剣な眼差しだ。
その感情を読み取りたい。けれどそんな余裕は私にはなく、ふと視線を逸らしたのは私だった。
「響、こっちを見ろ。響はどういう存在でいたい?」
うっ、そう来るか。
「質問返し、ずるいです。」
「・・・そうだな。
俺にとって響は…
なくてはならない存在だ。」
私の顔をじっとみつめている。その目をみつまたまま、視野がぼやけてくる。
「ありきたりですね。」
精一杯の強がり。その言葉だけでも安堵する。
「私もです。これから先もずっと…一緒にいたいんです。」
これは私からのプロポーズだと思って欲しい。
もう待つのは嫌だ。待てないのなら自分から言うしかない。
少し驚いた後、早瀬は満足そうに目を細めて、私の頬に手を添える。
「ああ、わかってる・・・
まったく、先に言うなよ。
俺も…」
と早瀬が言いかけた時だった、
スマホの着信音。
なんてタイミングが悪いんだ。と言わんばかりに早瀬が眉をひそめる。
液晶画面をみつめると「永野だ」とぽつりと呟いて通話ボタンを押す。
時刻は22時になろうとしている。
こんな時間に永野さんからの電話は何かあるに違いないという判断だろう。
私の身体も緊張でこわばった。
「ああ、わかったすぐ行く。」
さっきの甘い雰囲気から一変した空気が漂う。
「なにかあったんですか?」
「ちょっとな。遅くなるかもしれないから寝てていいから。」
「待ってます。というか、私も行きます。何があったんですか?」
「いや、永野といっしょだから。戸締まり、忘れるな。」
早瀬はそう言いながら、ジーンズを履きサッとシャツを羽織り、貴重品とスマホだけを持ち車のキーを掴んでいた。
不安が胸を過る。
急いで部屋を出ようとしている早瀬が靴を履きながら振り返った。
「響…」
早瀬が右手で"おいで"と合図をする。
呼ばれるままに早瀬に近づくと、グッと引き寄せられ胸の中へと閉じ込められた。
「社長?」
「帰って来たらさっきの話、ちゃんとしよう。」
そう言って、名残惜しそうに私の頭をポンポンとしてから部屋をあとにした。
しかし…話の続きなんて、もうできなかった。