ツレない彼の愛し方【番外編追加】
朝、目がスマホの着信音で目が覚めた。
早瀬の姿はどこにも無い部屋の中で。
「はい…」
「響ちゃん?垣内だけど…。」
「垣内部長…?
どうしたんですか?こんな朝早くから。何かあったんですか?」
早瀬が帰って来てないことと関係があるの?
「うん。
響ちゃん、落ち着いて聞いて。」
嫌な汗が手のひらに滲んで来る。
「今日発売される週刊誌に綾乃と早瀬さんの婚約の記事が出る。」
「えっ?婚約?」
まだ夢の中の出来事じゃないかと思えるほど、衝撃なひとことだった。
「うん…、どこでどうなってたのかこちらも調査中なんだけど、そちらも大変なんじゃないかな?」
「昨日から社長は帰って来ていません。」
少し沈黙があった。
「はは…帰って来てない…か。
響ちゃんと早瀬さんってやっぱりそう言う仲だったんだね。なんかそういうのやっぱりヘコむね。」
「えっ?」
「ま、とにかく記事の内容は今確認中。会社を巻き込んでるから慎重に動かなければならなくてね、時間がかかると思う。」
「それ、どういう意味ですか?」
「吉澤コーポレーションと朽木建設が親戚関係になるかもしれないんだよ。世間は興味本位でおもしろく騒ぎ立てるだろう。」
朽木建設は準大手ゼネコンだ。なぜ朽木建設と吉澤コーポレーションが関係するのだろうか?
朽木省吾が正社員になったときのことを思い出した。
仕事上は母親の姓だった早瀬を名乗っているが、本名は「朽木」だと早瀬は言っていた。
「もしかして…社長は朽木建設と何か関係があるんですか?」
「響ちゃん…そんなことも知らないの?」
そんなことも知らない。その言葉に傷つけられる。
「早瀬さんは朽木建設の次男なんだ。」
「えっ?」
「そんな大事なことも話してないのか…。響ちゃん、良く聞いて。うちの叔父貴・・・つまり綾乃の父親ね。その叔父貴と早瀬さんの父親、朽木の社長は昔からの知り合いなんだよ。だから昔から隆之介さんのことも、お姉さんやお兄さんのことも知ってるんだ。僕も綾乃も」
「お姉さんと、お兄さん?」
「そう、お姉さんの和泉さんはもうご結婚されてて家を出てる。お兄さんの尚彦さんは今は部長として会社に入ってるけど、いずれは社長だろうね。本当なら早瀬さんだって朽木に入るはずだったんだよ。だから綾乃との縁談も不思議じゃないんだ。ま、半分は叔父貴と朽木のおじさんの酒の席の話題だったけどね。」
「・・・・・・。」
「響ちゃん?大丈夫?」
「…はい。あの…綾乃さんは。」
「まったく、アイツは何をしでかしたのか。姿をくらましているよ。」
「しでかした?」
「ううん、こっちの話。とにかく、まだ事の真相はハッキリしていないけど、そう言う記事が出るから驚かないように先に連絡したんだ…。」
「ありがとうございます。でも…どうして私に?」
「早瀬さんと別れてと言った僕の罪悪感…それに早瀬さんから聞けないこともあるだろうから。響ちゃんには教えたくないことも...朽木のこととか、綾乃のこととか。そもそも、この時期になぜこんな話が週刊誌ネタになってること不思議じゃない?」
「確かに…いきなりですよね。」
「綾乃にそそのかされて、朽木のおじさんがね、早瀬さんと綾乃がお見合いをしたんだ。」
「社長と…綾乃さんがお見合いを?いつ…」
「やっぱりな…響ちゃんは知らないと思ってたよ。綾乃は例のパーティで響ちゃんを見て、なんだか急に行動し始めちゃって。こっちも何がなんだか」
部長は話しを続ける。
「綾乃には幸せになって欲しいし、響ちゃんも悲しんで欲しくない。でも二人が思っているのは一人の男性だからな。困ったことに。
とにかく、何かあったらいつでも連絡して来て。」