ツレない彼の愛し方【番外編追加】


こんな大事なことを私は出逢ったばかりの垣内部長から聞くなんて情けない。
5年も一緒にいたのに、早瀬は自分の家のことなんてほとんど話をしていなかったことに今更気が付くなんて。


それだけちっぽけな存在だってことじゃん。
悲しみと淋しさと小さな怒り。ごちゃごちゃになった感情が胸をうずまいていた。


それから二度寝もできる時間ではあったけれど、眠れる訳もなく、しばらくして、私は事務所へ向かった。
ドアを開けると社長と永野さんが一斉に私の顔を見た。
早瀬は無精髭が少し疲れを表している。永野さんもいつもはスーツ姿ばかりだけど、珍しく薄いブルーのカッターシャツとチノパンだから事務所で見るには違和感がある。


「おはようございます。」

垣内部長から聞いた話を鵜呑みにする訳ではないけれど、どこか裏切られた思いで感情がうまく出せない。無表情になってしまう。



「おはよう。

響…話がある。」


早瀬がすぐに私を呼び寄せる。永野さんはそっと席をはずそうとしていた。
すると慌ただしくまた事務所の扉が開いた。


「隆にい…これ、どういうこと?」

険しい顔をして朽木が入って来た。
iPadの画面にはネットニュース。早瀬と綾乃さんが腕を組んでロイヤルホテルのロビーに入って行く写真。


見出しには…「イケメンデザイナー朽木建設ご子息と吉澤コーポレーション令嬢、結婚間近。」


「お見合いしたって本当なの?結婚って。どういうことだよ。」

興奮してまくしたてている省吾を早瀬が怒鳴りつけた。



「省吾、黙れ。」

私は無言のまま、さっき垣内部長に告げられたことが事実だと確認する。



「響…話がある。」

早瀬は少し強ばった顔になり、さっきと同じ言葉で私の目をじっとみつめていた。
別れを切り出されるのだろうか。
昨日は二人の将来の話をしたばっかりなのに。
あっ、話すらできないまま終わってたか。


「響?」

無表情のまま、早瀬に向かってうなずくと後について応接室へ向かった。



「響、座って。今から話すこと、良く聞いてくれ。」

正直、早瀬の話が怖かった。その反面、どこか冷静にこの状況を見ている自分もいた。綾乃さんと結婚するって言われるのかもしれない。
今までのことは無かったことにって謝るのかもしれない。


「綾乃との事が週刊誌の記事に出てしまった。昨日から対策に追われていた。記事の内容の確認、早瀬デザインと付き合いがある方々への釈明や今後のこと…永野と一晩中、対策を練ってた。」


今はそんな事が聞きたい訳じゃない。あなたは…誰のところへ行くの?



「響?お前、大丈夫か?顔色が悪い。」



「はい。大丈夫です。話は…それだけですか?」



「......」



「仕事に戻っても良いですか?」



「響?…まだ話が終わってない」



「私は大丈夫です。」



「逃げるな!! 俺の話をちゃんと聞け。」

さすがの早瀬も私が半分立ち上がろうとしている姿を見て慌てている。



「響、いいか?

少し予定が狂って時間が必要になった。でも俺を信じろ。必ず片付けて昨日の話の続きをしよう…だから…」


ハッと私は顔をあげて早瀬の顔を見た。憔悴し切っているけど、早瀬の目は真剣に私をみつめてくる。早瀬の言葉は核心に触れず、ただ自分を信じろと言う。


このまま、私は早瀬を信じて、その言葉通り待っていればいいのだろうか?
だって綾乃さんとお見合いしたんでしょ?朽木建設のご子息だって一度も話してくれなかったじゃない。
返事も出来ずに俯いたまま黙っていると、急に事務所が慌ただしくなる。



「ちょっと、綾乃さん、早瀬は話し中ですから!」
そう制する永野さんの横をすり抜け綾乃さんが応接室に入って来た。







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