ツレない彼の愛し方【番外編追加】


あの報道が出て5日が経った。
早瀬とはあれから逢っていない。


5日前に早瀬が綾乃さんと会社を出て行った姿を見たのが最後だ。
事務所に来ると報道陣で迷惑がかかるからしばらくは事務所にも部屋にも戻らないと連絡があった。


今、どこにいるんだろう。
ある場所でちゃんと仕事してるから大丈夫だと永野さんは言うけれど、そこがどこなのかは教えてくれない。万が一、誰かに聞かれた時、知らない方が知らないと嘘を付かずに言えるからという理由で。


仕事はメールか電話連絡で、あとは永野さんが早瀬とのパイプ役になってくれている。



「たかがデザイン事務所の社長なのに、どうしてこんなに大きな報道になるんだ?」

早瀬と思うように連絡が取れず、だんだんとイラつき出した岡野がいう。


「岡野さん、わかってないなぁ。社長は朽木建設の次男坊だって世間に知れ渡ってしまったんですよ。私も驚きましたよ。」

と、大げさに美咲ちゃんが朽木くんをにらむ。



「どうして教えてくれなかったの?」



「隠してなかったじゃないですか。僕と社長は兄弟って。」



「でも朽木建設のご子息だって教えてくれなかったじゃん。」



「あえて言うことでも無いでしょ。美咲さんがどこの誰のお嬢さんだって会う人会う人に言うんですか?」


「それとこれとは違うでしょ。だから、それくらい早瀬デザイン事務所の社長・早瀬隆之介が実は朽木建設のご子息で、そのご子息が吉澤コーポレーションのご令嬢と婚約なんて、株主はびっくりよ。」



「ああ、そういう事も大事になってる理由か。」



「まったく岡野さんは疎いんだから。」



こんなやり取りも私には参加する気持ちにもならず、ただ聞いているだけ。そんな私を気遣ってくれるのは朽木くんだった。


「響さん、やつれてます。」


「・・・やつれてるって、失礼ね。」


「飯、食ってます?」


「食べてるよ。たぶん・・・」


「たぶんってなんですか?おかしいでしょ?」

自分でもおかしな返事だなってわかってる。


「夕飯、何か食べて帰ります?」


「そういう気分じゃない。」


気分だけで食欲が無い訳じゃない。
少し前から胃が重い。
眠りも浅いのか、朝、起きる事がつらくなっていた。


「食べなきゃダメですよ。」


「ごめんね、朽木くん、家で済ますから大丈夫。ありがとう。」

もう何を言っても聞かないと悟ったのかこれ以上は何も言って来なかった。



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