ツレない彼の愛し方【番外編追加】
仕事が終わり部屋に戻ってから気が抜けたのかだるい。
「風邪でもひいたかな…。」
同じマンションには弟の亮介が住んでいる。
亮介が帰って来る時に薬とゼリーみたいな食べ易いものでも買って来てもらおう。
スマホを片手に電話をかける。
文字を打つのが面倒で亮介の名前を履歴から検索…
あっ…
着信履歴に「早瀬隆之介」と言う文字。
それは5日前の履歴。
そこに履歴があったから自然とリダイアルする指。
早瀬の声が聞きたい。今どうしているのか知りたい。
私は待っていてもいいの?
コールは空しくなるだけで、一定の時間で留守番電話に切り替わった。
私はいないとわかっていても玄関から飛び出して早瀬の家へ向かう。
玄関を何度か叩いてみても何の応答もない。
早瀬の玄関の前でへなへなと座り込んでしまった。
「社長…」
かすれた声が出たことに自分でも驚く。
その声が涙のせいだと言うこともやっと気が付いた。
不安でいっぱいになる。もうダメかもしれない。
涙がボロボロと零れていく。
その時、スマホが鳴った。
さっきの電話に気が付いて折り返してくれた早瀬かもしれない。
液晶に映る名前の確認も確認せず画面をタップした。
「もしもし!」
「もしもし、響ちゃん?」
「あっ・・・はい。」
「電話に出るのは早かったのに、声でテンション下げるのショックなんだけど。」
垣内部長が冗談をいう。
「すみません。」
「いいよ。早瀬さんの電話でも待ってたんでしょ?連絡、取れてないの?」
「・・・・。」
「響ちゃん?」
考えてみたら、早瀬とのことは誰にも言っていない。けれど垣内部長は早瀬と私の関係を知ってるかのように話しているから錯覚する。
「響ちゃん、大丈夫?」
ダメだ。この人に弱音を吐いちゃ。
そう自分を制御しても止まらない涙。
ぐずぐずと鼻をすする。涙で言葉に詰まる。
「響ちゃん、今ひとり?」
「・・・はい。」
「どこにいるの?」
早瀬の家の前なんて言えず、つい会社だと言ってしまう。
「会社でひとりで泣いてるの?そんなのダメだよ。今から行くから。」
「・・・大丈夫です。もう平気ですから。」
今更ながら家だと言えばよかったと後悔する。
「平気でも大丈夫でもとにかく行くから。動かないで待ってて。絶対だよ。」
そう言って修二の電話は切れた。
一方的な話に義理立てすることもないのに、フラフラと立ち上がり、会社に向かう。
本当に来るんだろうか?
何をしに?
そんな疑問も頭の片隅にあるだけで、もうこの状況もどうでも良いとさえ思って来た。
今はただひとりの時間がひどく辛かった。