ツレない彼の愛し方【番外編追加】


しばらくすると「さいとうボンディングクリニック」と看板が見えて来た。
5階建ての建物の前に車を横付けすると、温和な顔をした背の高い白衣の男性が中からゆっくりと歩いて来た。


「潤一先生、ご無沙汰しています。」



「やぁ、修二くん、久しぶりだね。」



「すみません、ご無理を言って。」



「いや、いいよ。」

そう言いながら、私の方を見てニコッと微笑む。
ガタイは良いけれど、優しい笑顔の男性だ。


「とにかく詳しい事情も聞かないと、あんなことを言われたら僕だって気になるよ。」

修二に話かけた後、また私に視線を向けて



「はじめまして。」

と笑いかけた。どこかホッとする暖かさに涙が出そうになる。


「すみません、時間外に…」



「気にしないで。修二くんのお友達なら僕が診なくてはね。さ、入って、入って。修二くんは待っててね。」



「はい。」

そう言って私をまっすぐに診察室に招き入れた。
緊張の中、潤一先生と言われる男性は丁寧に診察してくれた。
産婦人科など初めてだったけれど、不思議と不安や恐怖心はなく一通りの検査は終わった。


検査の後、結果が出るまで待合室で待って待っていた。
修二は何も言わず、隣にいてくれた。
それだけでも心強かった。もしココに一人でいたらと思うとやるせない気持ちになるから。
しばらくすると診察室から潤一先生から「入って」と声をかけられた。
堅く緊張している私の背中に手を添えて、修二さんは診察室へ連れて行ってくれた。



「どうぞ。座って…修二くんはもう少し待ってて」


「はい」
修二はまた診察室から出ていく。


「結果が出たよ。

進藤さん、お腹に赤ちゃんが育ってる。
おめでとう。7週目。身体が辛くなってるんじゃない?」


「…はい」


「だよね。一人でよく頑張ったね。これからは僕たちとちゃんと考えていこう」

私は俯き気味の顔を上に向けて先生を見た。
産婦人科医ってこんな感じなんだろうか?なんせ初めてのことだから、こんな風に言われることが新鮮だった。


「まずは…おめでとう」



「はい、ありがとうございます」

にっこりと笑った先生は問診票に目を通しながら



「それと…父親の欄、未記入だけど…」



「…はい」



「結婚はしていないんだね。医師としてハッキリ聞くよ。産むのかな?」

この質問に驚いた。私の中で産む以外の選択がなかったからだ。お腹の中に命が宿ったら産むのは当たり前と考えていた。


「産みたいです」


「そう、良かった」

先生は少しホッとした笑顔を向けた。


「じゃ、父親に報告しなくっちゃ」


「それは…」

その後に続く言葉がみつからず、押し黙ってしまった私の答えを待つ前に先生が言葉を繋げた。


「少しだけ冷静になって考えて。今日、妊娠を確認したばかりだし。ただ、時間はそんなに無いこともわかってるよね」

それは…赤ちゃんをこの世に送り出せない選択。


「いやです。そんなのイヤ。赤ちゃんは私が守ります」


「そう。じゃ、産もう。お母さんがそこまで覚悟が出来ているなら僕は応援するよ。さて、そろそろ修二くんがお待ちかねだ。」


そう言って私を立たせ、修二が待つ待合室へ一緒に出て行った。
私達に気が付いた修二はすぐにそばにやってきた。


「どうだった?」

何も関係ないのに、ここまで連れて来てくれた修二さんには報告する義務があるはず。


「赤ちゃん…いました」



「…そっか…おめでとう…で良いのかな?」



「…はい」


< 60 / 139 >

この作品をシェア

pagetop