ツレない彼の愛し方【番外編追加】
「修二くん、ちょっとイイ?」
そう言って、先生が修二だけに何かを話していた。
私はこれから先のことをぼんやりと考えていた。
早瀬に報告しよう。
やっぱりこの子の事を考えたら、父親に相談するのは当たり前だと思う。綾乃さんの事を考えてばかりいられない。この子の為に強くなろう。
そう決心させてくれたのは、やはり病院に連れて来てくれた修二さん、そして先生のお陰だと思う。ひとりで悩んだって何も解決しなかった。
先生と修二さんの話が終わったのか、二人で私の方へ戻って来た。
姿は見えていても何を話しているかわからなかったけれど、二人とも穏やかに笑っていた。
「進藤さん、近いうちに診察時間内にもう一度来て。事務手続き、今日は何も出来ていないからね」
「はい…ありがとうございました」
「修二くん、頑張って」
「はい」
「さ、行こう」
修二さんが私の背中にそっと手を添えた。
もう一度、先生にお礼を行って、私達は元来た道を帰ることになった。
「家まで送って行くよ」
「ありがとうございます」
車を走らせた修二さんに素朴な疑問をぶつける。
「垣内部長」
「修二!」
そここだわるんだ…と思いつつも、来る時よりも親近感が湧いている自分に気が付き自然に名前が呼べる。
「修二…さん」
「なに?」
運転中だからチラっとしか横を向かなかったけれど、私の目を見て微笑んだ。
「どうして私にここまで親切にしてくれるんですか?しかも、こんなところまで付いて来てくれて…」
「う~ん…どうしてだろうね。放っておけなかった…のかな」
「痛々しかったですか?私…」
「というよりも、今の響ちゃんと同じ境遇になった子を助けられなかった過去があるからかな。その子が傷つくのも見てしまってるし…今でも後悔してる。もちろん、誰彼かまわず助けたい訳じゃないよ。響ちゃんだから力になりたかった」
「ありがとうございます。私、申し訳なくて。まだ出逢って日も浅い修二さんにこんな事に付き合わしてしまって。でも…すごく助かりました。ありがとうございました」
「ん?なんか、来る時より清々しいね。何か気持ちの変化でもあった?」
「はい…私、やっぱり報告しようと思います」
「隆之介さんに?」
「はい。今の状況では、どう受け取られるかわかりませんが…少し怖いけど、なんとなく喜んで貰えるかもしれないと」
「そうだね」
一言だけ呟くように修二さんが言う。
「もし…もしね、万が一の話だけど、一人で産もうなんてことになったら、絶対に僕のところにおいでよ。困ったことがあったらいつでも僕を頼って」
「修二さん?」
あまりにもその言葉に重みがあってまじまじと修二さんの顔を見る。
「どうしてそこまで親切にしてくれるんですか?」
「さっきも言ったよね?今の響ちゃんと同じような境遇になってしまった子を助けられなかったこと。傷つけてしまったこと。今でも後悔しているんだ。それに…好きな子が苦しんでいる姿は相当辛いんだよ」
そう言って顔を歪めながら私をじっと見つめてくる。
「…えっ?」
「響ちゃんはまだ逢ったばかりだからと信じられないかもしれないけれど、キミにどんどん惹かれていくんだ。人を好きになるのなんて時間の長さなんて関係ないんだよ」
「でも…私には…」
「わかってる。お腹には隆之介さんの子が宿ってことも響ちゃんが好きな人も隆之介さんってことも。でもね…」
そう言って真剣にまなざしを向けて来た。
「万が一、ひとりで産むようなことになったら僕がいるから。絶対に一人で抱え込んじゃダメだよ。僕が…誰の子であろうと赤ちゃんごと響ちゃんを受け止めるから…それだけは憶えておいて」
修二のその言葉は冗談でもふざけている訳でもない。
しかし現実は、そう簡単なことではないはず。
それなのにそこまで考えてくれていることがただ嬉しくて心強くなる。
修二さんには感謝ばかりだ。
「ありがとうございます」
修二さんの好意をそのまま受け取っておこう。
でもたぶん…修二さんを頼らなくても大丈夫だとその時は思っていた。