ツレない彼の愛し方【番外編追加】

妊娠がわかって送り届けたものの、なんとなく心配になった。
隆之介さんに報告すると言っていたが、そんなに簡単にことが進むのかと。
案の定、部屋から飛び出して来た彼女は涙でぐちゃぐちゃな顔をしていた。

なのに表情がない。
哀しみがキャパを超えると人間はここまで放心状態になるのかと目の前にいる彼女がたまらなく心配で身体を引き寄せた。
いつもなら真っ赤な顔をして逃げる癖に、されるがままに俺の胸に抱かれている。


綾乃は何をしたい?
どうしてここまで響ちゃんを傷つけるんだ。


身体の力が抜けていく響ちゃんを抱きかかえ、そっとソファに座らせた。
彼女の部屋はキレイに片付かれている。
ふと目に付くローテーブルに置いてある灰皿。
彼女はタバコを吸わないから隆之介さんが使う為に置いてあるだろう。


最初は綾乃がお見合いすると言い出した早瀬隆之介に興味を持った。
その傍らにいつもいたキレイな女性。
化粧は派手じゃないのに透き通った白い肌が印象的だった。


いつもTシャツにジーンズというようなシンプルで飾らないスタイルだった。
それが一段と彼女の素朴さを際立たせて、自分の周りにいる洋服や装飾品、化粧で着飾った女性とはまったく違う魅力を醸し出していた。


そんな彼女が綾乃が代表を努めていたレストランのパーティで華麗な変身を遂げていたのだ。
いつもよりは露出の高いドレス。少しヒールのある靴。
化粧もヘアスタイルもドレスに合わせていつもよりきらびやかに見える。


着慣れていないせいか、どこか落ち着きがなくソワソワしていた。
事務所のスタッフたちにもイジられてプリプリ怒っている顔もキュートだなと思っていた時、隆之介さんが何かを耳打ちした途端...


真っ赤な顔をして化粧室へ足早に去って行った。
その顔はそれまでの無邪気な顔からは想像ができないほど...


色っぽい目、艶っぽいくちびる。
オンナの顔をのぞかせた瞬間だった。


彼女も隆之介さんに惚れていることは聞かなくてもわかる。
それがなんだか悔しくて彼女に自分の存在を知って欲しくなったんだ。





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