ツレない彼の愛し方【番外編追加】
「もしもし、進藤さんの携帯でよろしいでしょうか?さいとうボンディングクリニックです。」
「はい…」
「昨夜、診察された件で…保険証を提示して頂きたいのですが、いつ頃、いらっしゃいますか?」
どうしてこのタイミング?
行く当てはないけれど、東京から離れたくて新宿の高速バスターミナルにいた。
このまま出掛けてしまったら、親切にして頂いた先生にも修二さんにも迷惑がかかる。
「わかりました。今からお伺いします。1時間で行けるかと思います」
「よろしくお願いします」
事務的な対応のまま電話は切れた。
その時だった、スマホの液晶に着信の文字…そこには待ち焦がれた名前。
早瀬隆之介
もう…遅いよ。
でも…最後にもう一度、声が聞きたい。
「もしもし…」
「響!お前、なんだコレは!!!」
いきなり怒鳴られた。
「…辞表ですか?」
平静を装ってきちんと返事できてるかな?
「だから、何だって聞いてるんだ!」
「そのままの意味です。私が担当していた仕事はだいたい終わってます。少しだけ亮介に引き継ぎましたが...」
「そういう事を聞いてるんじゃない!今、どこにいる。帰って来い…いや、迎えに行く」
「帰りません…来なくていいです。来ないで下さい。社長が…他の誰かと一緒のところを見るなんて…ムリです。」
「...響...」
私の名前を呼ぶ隆之介さんの低い声が好きだった。
バスターミナルには今たくさんの人がいる。今なら言える。
私からの最後の告白…
「隆之介さん、好きです…」
雑踏に紛れてその声が届いたかどうかはわからない。
私はそっと画面をタップして電源をオフにした。