ツレない彼の愛し方【番外編追加】
とにかく病院へ行って手続きだけはして来よう。
それから今後の行き先を決めても遅くない。
「あの…進藤ですけど、昨日の診察の受付をしに来ました。連絡ありがとうございます」
「あ、進藤さんですね。保険証をご呈示頂けますか?それとこちらの受付書をご記入ください」
受付書を記入後「お待ち下さい」と言われたので、しばらく待合室で待っていた。
お腹がふっくらと膨らんでいる人、乳児を連れた人…みんな命を育んでいるんだなとぼんやりと見ていた。「幸せそう…」そう思ったら、涙がボロボロと零れて来た。
「やだ…どうしよう…止まらない」
みんな心配そうに見ている。
受付の方が慌てて私のそばにやってくる。
「どこか痛みますか?具合でも悪い?」
フルフルと首だけ横に振ってみたけれど、堰を切ったように涙は止まらなくなっている。
「立てますか?とにかくこちらへ来て休んで下さい」
そう言って案内された部屋は院内から渡り廊下を通って行ける隣接した建物。
カフェ?と思うような小さな一軒家。案内されて中に入ってみるとアイボリーを基調とし、柔らかく暖かい日差しが注ぎ込まれた部屋。置いてあるソファに促され、すとんと座り込む。連れて来てくれた受付の方と入れ替わるように、優しいまなざしの女性が入って来て、私の背中をそっと擦ったり、トントンと軽く叩いたりして気持ちを落ち着かせてくれた。私より少し年上に見える。
「落ち着いた?」
「はい…」
「そう…良かった」
そう言って私の顔を覗き込むと柔らかい笑みを浮かべてくれた。
暖かいぬくもりと柔らかい雰囲気が心地良い。
「ここの病院のカウンセラーです。なんて大袈裟に言ってるけど、先輩ママとしてこれからママになる皆さんのお話を聞いてるだけ」
とまた優しく笑った。
「一応、夫が院長しています!」
と、今度はテヘペロとでも言いそうな茶目っ気いっぱいに笑った。
思わずクスっと笑ってしまった私を見て
「進藤さん、笑顔の方が断然いいわ!赤ちゃんもママが笑ってた方が楽しいって!」
「ありがとうございます」
するとさっき入れ替えで出ていった受付の方が私の保険証を持ってやってきた。
「お返ししますね」
そして1枚の書類を和泉さんと名乗ったその女性に渡し、立ち去って行った。
和泉さんがその用紙をじっとみつめている。きっと私のデータが書いてあるの違いない。
「進藤響さん?妊娠7週目なのね。少し…気持ちが不安定な時期でもあるから、涙もろくなっても仕方がないのよ。それよりも気になるのはその荷物。家出でもしたの?」
何も考えず住まいも会社も飛び出して来てしまった私の荷物はキャリーバッグに引きずられていた。目につくのは当たり前だ。