ツレない彼の愛し方【番外編追加】


「いえ…旅行に…」

嘘じゃない。あてもなく遠くへ行くのも旅行だ。



「ひとりで?」



「はい…」



「ん~...ひとりで旅行はいただけないな」



「…」



「まだ安定期にも入ってない妊婦さんが一人で旅行なんてもってのほかよ」



「いえ、旅行というか、ちょっと気晴らしに遠くへ行こうかと」



「それでもダメ!」



「でも…」

しばらくの沈黙が続いた。
すると和泉さんが想いも寄らない事を言い出した。



「今ね、ここの部屋のお留守番を捜していたの、住み込みの...」



「住み込み…ですか?」



「そうなの、少しの間でかまわないんだ。お留守番と言ってもお話しに来る女性が来たら、お茶を出してくれたり、足りないものをお買い物に行ってくれたり…進藤さん、お仕事は?」



「今は…無職です」


「そう…少しの間だけでもお願いできないかしら?もちろん、身体がしんどいときは休んでいてかまわないし」



心が揺れた。
実家にも帰る決心がついてない私はしばらくホテル暮らしをしようと思っていたから。



「どうかな?」

和泉さんがコーヒーカップに口をつけながら私の答えを待っていた。



「私で良ければ…しばらくお願いします」



「そっ!良かったーーー。ありがとう」

本当はわかっていた。和泉さんは私を心配してこんな引き止め方をしてくれていたこと。でも今はそれに気づかないふりをして甘えたい。だって今は…ひとりで強く生きなければと決心を固めている途中だから。決心がついたら、ここから旅立とう。



「じゃ、こちらのお部屋を使ってね」

そう案内された部屋にはベッドとドレッサー、小さなクローゼットが備え付けられていた。
もしかしたら、私みたいな訳あり妊婦の手助けを何回もしてるのかもしれない。
荷物だけ置いてすぐに和泉さんがいるリビングに戻る。仕事の内容を説明するから座ってと和泉さんがそっと手を取ってくれた。暖かいその手に何度も安堵する。


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