ツレない彼の愛し方【番外編追加】
「俺ですか?」
「そう!お前。なんで勝手に婚約なんてしてんの?」
「ああ・・・あれは・・・事情があって。」
「はぁ?」
「婚約なんてしていません。ただ・・・どんどんおかしな方向へ進んでしまって」
「で、わかってるんでしょ?あんな騒ぎになった原因があのお嬢ちゃんだってこと。」
「・・・・・。」
「そもそも、なんでお見合いなんてしたんだよ。親父に言われたから?」
俺は黙っていた。それが答えだと思ったのか兄さんが言う。
「はい!・・・行くよ!」
俺が黙っていると強引に事務所からどこかへ連れ出そうとする。
「とにかく、お前、付いて来い」
「どこへですか?」
「実家だよ」
事務所のスタッフが唖然としていると「あっ!僕も行きたい」と省吾が嬉しそうに付いて来る。
「省吾…?ん!そうだな、家族の大事な話になるから、省吾もちょうどいい」
家族の大事な話?あ~、俺の結婚話か…はぁ…どうすりゃいいんだ。
永野に仕事の調整を頼んで、事務所をあとにした。
実家か…盆暮れ正月しか足を運ばなくなった。
実家が嫌な訳ではない。むしろ好きなほうだ。
血のつながりこそないが、父さんを尊敬している。
優しい姉さんもこの破天荒な兄も大好きだ。
けれど大人になるにつれ家族の中の自分の立ち位置がわからなくなり、大学入学とともに家を出た。朽木建設の跡継ぎの一線から自然に退こうと会社も立ち上げ、軌道にも乗せた。そのうち省吾の朽木に戻るだろう。でも自分は早瀬隆之介として生きていこうと決めた日から、頑にそれを守り通して来た。でもまだダメだ。もっともっと成功しなきゃ。それが父さんや母さん、そして兄さん、姉さんに恩返しすることだと思っている。そして誰よりも響の為に。
兄が社用車で実家へと向かう。省吾は助手席に座り、後ろに兄さんと自分が座る。
話の流れでは薄々感じていたが、一応、聞いてみた。
「兄さん、実家でなんの話ですか?」
「だから言ったでしょうに、家族で大事な話!」
事務所から15分もしない場所に実家はある。
車の中では省吾と兄さんのくだらない話で充満していた。
省吾が産まれた時、兄さんは中校生で、自分も小学生だった。だから赤ん坊の頃からの成長はきちんと記憶に残っている。
みんな一番下の弟が可愛くてしかたないのは自分も同じだ。だからこそ、朽木建設で父と兄も元で不自由なく働いてもらいたかった。
けど早瀬で勉強したいと懇願するに弟を嬉しく思ったのも事実だ。その弟とムードメーカーの兄のやり取りは面白くて好きだった。いつものようにただ微笑んで見ていると、兄さんが自分にヘッドロックをかけて参戦させようとする。狭い車内でふざけてる姿はいつだってガキのままだった。
間もなく車は実家に着いた。