願いは叶う
百合子はありったけの悲鳴を上げながら、引き戸をすり抜けた女の右足をじっと見ていた。


有り得ない現実が、今、百合子の目の前で起きていた。


〈 やっぱりこの女の人、人間なんかじゃない 〉


百合子の心臓は、壊れたように早鐘を打った。


〈 この女の人は、おぞましい顔をしたバケモノ。

私はあのバケモノから、どうやって身を守ればいいのかしら? 〉


顔中に包帯を巻いた女の人は、百合子から視線を外さずに、さらに教室の中の方へ体を押し込んだ。


すると女の人の体は、まるでそこに引き戸がなかったかのようにするりと引き戸をすり抜けていった。


そして彼女は完全に教室内に入り込むと、教室の隅から百合子の顔をじっと見つめた。
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