願いは叶う
『やっと……、会えたわね……』


顔中に包帯を巻いた女がそう言葉を発したとき、百合子の膝はカタカタと震えた。


一度聞いてしまったら、忘れることができない地を這うような低い声。


人の倍ほども遅い話し方。


彼女の気味の悪い声を百合子が聞いてしまったとき、あの公園での出来事が百合子の頭の中で鮮明に蘇った。


あの女の人の顔に巻いてある包帯の下には、刃物で切り刻まれた醜く、おぞましい顔が隠されている。


『会いたかった…、山村……、百合子……。

私は……、お前に……、会いたかった……』


顔中に包帯を巻いた女の人は、果物ナイフを右手に握りしめて、教室の隅から歩き出した。
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