願いは叶う
顔中に包帯を巻いた女の白いレインコートからは、水滴がピタピタと垂れ落ち、それに混じって真っ赤な血が、彼女の背中から垂れ落ちていた。


顔中に包帯を巻いた女は、百合子と向き合った。


『絶対に……、逃がさない……』


顔中に包帯を巻いた女の低い声が、百合子を震え上がらせた。


そして、彼女の顔に巻いてある包帯が、ひとりでにヒラヒラと床に落ちていき、彼女の顔が露わになっていった。


百合子は彼女の存在が恐ろしくて、生きた心地もしないまま、そっと彼女から遠ざかった。


〈 誰か、助けて!

誰か、私からこの女の人を追い払って! 〉


顔中に包帯を巻いた女の包帯がヒラヒラと落ちていき、百合子は彼女のえぐられた左目を見た。


彼女の左目には瞳がなく、まるで闇の中の洞窟のように、どこまでも暗く、不気味だった。


〈 何なのこの人。

どうして、この人の目は…… 〉


おぞましい顔をしたバケモノがゆっくりと、百合子に近づいてきた。


「来るな……、バケモノ!」


百合子は声を震わせながらそう言って、下駄箱から誰かの靴を取り、それをおぞましい顔をした女に投げつけた。
< 185 / 636 >

この作品をシェア

pagetop