願いは叶う
幼かった頃の私には、自分の本当に気に入ったものだけを欲しがり、その一つのものをいつまでも宝物のように大切にする習慣があった。
それは、誰に教わるわけでもなく、私が母と過ごす毎日の中で、自然と身につけた知恵だった。
母と行った夏祭りの夜、広場にはたくさんの出店が並び、幼かった私には、その出店に並ぶすべてのものが魅力的であった。
でも私には、あれもこれも欲しいと、母に言うことはできなかった。
だから私は、夏祭りの出店にある魅力的なたくさんの品物を子供ながらに見比べて、自分がたった一つ、これだけが欲しいと心定まったときに、母にそれをねだるのだった。
父はほとんど家に帰って来ず、まるで他人のようであったし、母も病弱であったため、あまり仕事をやれなかった。
だから、私が最初に覚えなくてはならなかったことは、欲しがらないこと、あきらめること、一つのものを大切にすること。
何もいいことがなかった一日の中で、それでも何かいいことがあったのではないかと、自分に言い聞かせること。