願いは叶う
絹子は鏡の前でヘナヘナと崩れ落ち、タイルの上に座り込んだ。


絹子の心臓は、ドキドキと大きな音を立てて鳴り止まず、絹子の体中から、嫌な汗がどっと吹き出した。


〈 幻を見たのかしら? 〉


絹子は額の汗を手で拭いながら、そんなことを考えたが、自分が今ここで感じた恐ろしさが、幻とは思えなかった。


〈 やっぱり私の後ろには、女の人が立ってたわ……。

そう、あの女……。

長い黒髪の看護師。

田所光江が…… 〉


絹子は呼吸の乱れを整えることができぬまま、自分が何をすべきか考えた。


あと半日もしないうちに、小夜子は病院にやって来る。


そしたら自分は、この病院を出て、小夜子たちの家に行くことができる。


あと半日……、あと半日が過ぎれば……。
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