願いは叶う
絹子が病院の屋上にたどり着くと、病院の屋上からは、空一面に輝くきれいな星が見えた。


ずっと昔に、小夜子と夏祭りに行ったときも、こんな風にきれいな星が輝いていたと、絹子はふと思った。


あの日の夏祭り、きれいな浴衣を着ている子供たちの中で、小夜子はいつもと変わらぬTシャツを着ていた。


小夜子は祭りの出店を見ているだけで、何も欲しいと言わなかった。


そして夏祭りの帰り際に、小夜子は遠慮がちに綿あめだけを自分にねだった。


「お母さん、私にこの綿あめだけ買って欲しい」って……。


絹子は屋上に着くと、屋上の真ん中で、呆然と立ち尽くした。


手すりで囲まれているだけの屋上に、もう絹子の逃げ場はどこにもなかった。
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