願いは叶う
カツーン……。
カツーン……。


絹子の背後からは、あの乾いた足音が、一定のリズムを刻んで近づいていた。


〈 お母さん、心から強く願えば、本当に願いは叶うの? 〉


絹子の頭の中に、幼い日の小夜子の顔が浮かんだ。


小夜子は目を輝かせ、絹子の顔をじっと見つめ、絹子が出す答えを待っていた。


絹子はそのとき、思わず嘘をついた。


心から強く願えば、願いはきっと叶うって……。


でもそんなのは、言葉の遊びに過ぎないって、絹子も小夜子も気づいていた。


だって自分たち親子は、少しも幸せではなかったから……。


カツーン……。
カツーン……。


足音はもう、絹子のすぐ近くにまで迫っていた。


絹子は思わず振り返り、声を上げた。


あの長い黒髪の看護師、田所光江は、絹子のすぐ後ろに立っていた。
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