願いは叶う
私が山村武士を見つめていると、どこからともなく彼のところへ桜井由美がやって来て、二人は楽しそうに会話を始めた。


私は二人のその様子を見て、頭がカッと熱くなり、胸が押しつぶされるくらいに痛み、思わず悔しさから歯ぎしりをした。


山村武士の楽しそうな笑顔は、私にではなく桜井由美に向けられていた。


〈 桜井由美、あなたそこからいなくなって! 〉


私は、心の中で叫んだ。


私の大切な人の気持ちは今、桜井由美の方に向いていた。


〈 あなた、どれだけたくさんのものを手にすれば気がすむの?

もういいじゃない。

あなたはもう、十分過ぎるほど幸せなのに…… 〉


私は桜井由美が許せなかった。


あの人は、私にないものをたくさん持ったいる。


あの人は、何も持たない人の気持ちを知らずにいる。


どうして私は、桜井由美ではなくて、寺田小夜子なのだろう?


どうして……。


私はそう思って、悔しくて歯ぎしりした。


私は……、桜井由美を許せない。
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