願いは叶う
卒業式を三日後に控えたときに、私は桜井由美に話しかけられた。


「寺田さん、中学校を卒業したら、定時制高校に進学するの?」


私は、桜井由美のその言葉に表情を変えずに彼女の顔を見つめた。


「ええ、私は定時制高校に通いながら、働くことにしたの。

私には、勉強は合わないから……」


「そんなことないのに……。

寺田さんだったら、試験に合格できる普通高校がいくらでもあったのに……」


「いいの……。

私には、無理だから……」


「寺田さん、そんなことはないのに……」


私は、桜井由美の言葉を聞いているうちに、気分が悪くなっていた。


桜井由美の言葉に悪意などなかった。


桜井由美は、本当に私を心配しているのかもしれなかった。


でも、恵まれた生活をしていた彼女は、一番大切な事実に少しも気づく様子はなかった。


貧しい生活をしている私には、今よりも素晴らしい進路を選びたくても、選ぶことができなかった。


限られた選択肢。


私は、その縛りの中で、ずっと今まで暮らしてきた。
< 410 / 636 >

この作品をシェア

pagetop