願いは叶う
私はその日、母の体の震えが止まるまで、母の病室にいた。


小さな体を震わせている弱々しい母を見て、私は母のことが心配だった。


もうこの人には、何の苦労もして欲しくない。


私は、母に話しかけた。


「お母さん、私が子供の頃、よく言ってくれてたでしょ、『願いはきっと叶う』って……。

私、お母さんにはとても感謝してるのよ」


母は、私に目を向けていた。


「お母さん、私、今とても幸せなの。

私には素敵な家族がいるし、念願の家も買えたのよ」


母は私の話を聞いて、少しだけ笑った。


「願いは叶うって、お母さんが私に教えてくれたから、私は今、幸せなの」


「もしも私が病気じゃなかったなら、ちゃんと仕事していられたら、小夜子はきっと、もっと……」


母は小さな声で、呟くように言った。


「ごめんね、小夜子。

もしもあなたが別の家に生まれてたなら、あなたには、もっとたくさんの可能性があったはずなのにね」
< 51 / 636 >

この作品をシェア

pagetop