サマーノウト
サマーノウト
愛犬とふたりぼっちで、広い砂浜を裸足のまま歩いていく。
青い海が穏やかに波を打ち、下部を水につけた夕陽が街を朱に照らしている。
その様は、さながら緻密に描かれた絵画のようで。
あたしは涼風吹き抜けるこの時間に、愛犬のマリンと散歩をするのが好きだった。
それは春であったり、夏であったり、秋であったり、冬であったり。
この海は、四季折々の美しい景色をあたしに見せてくれる。
その日、波打ち際の砂浜に足跡をつけながら、あたしはぼんやりと歩いていた。
ときどき、ゴールデンレトリーバーのマリンに手を引っ張られながら。
もうすぐ、夕陽が沈むな。
そう考えたあたしは、ふと足を止め顔を上げた。
何か、音がする。
心が安らぐ音。
なんだか妙に懐かしくて、優しい音が。
微かに耳に届くそれは、聞いたこともない滑らかな音色だった。
凪のような、それは。
「…ヴァイオリン?」
ヴァイオリンの音が、海に響く。
音は徐々に鮮明になっていき、夕暮れ時の砂浜が、澄んだ音色で染められていく。
目を閉じて、あたしは誰かが奏でる美麗な曲に身を浸した。
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