かぐやの月
『あの子記憶をなくしたらしいわよ』
『記憶だけじゃない、戦い方も忘れてしまったって話よ』
『いい気味ね』
『ざまぁ見ろって感じ』
『ついでに、魔物に喰われちゃえばよかったのになんで生きて帰れたのよ』
『銀司様たちのおかけじゃないの?』
『魔物が倒れているあの子の周りを囲んでいたらしいぜ』
『あんな穢れた子魔物も喰わないんでしょ。きゃはは』
『お前らなぁ、かぐらは里守りとしてこの里のために命張ったってのにそこまで言うか?』
『なによぉ、あんたちっとばかしかぐらがべっぴんだからって、あんな野蛮人の肩持つのかい?』
『ちげぇよ、ただ・・・オラのじっちゃんがかぐらに病気治してもらって・・・』
『なにさ、あんたも野蛮人に魂もってかれちゃったのかい?!』
『なんてこと言うんだ、ちがうさ!』
すれ違うたびに里の者たちが自分の噂話をしている。
照り付ける太陽のせいか、悪意ある言葉にやられたのか眩暈がする。
「お散歩ですか?」
火照った体を潤す冷たい風がスーっとかけぬけた。
「箔先生、何だか私、この里の人に嫌われているようで」
「気にしない気にしない。里で一、二の強者二人がかぐやちゃんを心配して、あんなに取り乱したんですよ。クックック」
「先生?」
「いや、失礼。本当に子どものころから生意気な奴らでね、でも久々に可愛いところを見せてもらいました。そう、かぐやちゃんの涙も見たことはありませんでした」
「先日はお世話になりました」
「いえいえ、以前は私のほうがずっとお世話になっていましたよ。あなたは素晴らしい治癒力を持っていますからね」
「私、思い出せないんです。何か大切なことを忘れてしまったようなの」