8月の雪


「…花本君…全部、知ってたの」

「えっ!?」

「あの人の息子で、私のこと知ってたのよ…」


それって…花本は美紗のことを知ってる上で、近づいたのか?


一どうして…?


あんなことをした父親を憎んでいる美紗と、父親を逢わせたら、こうなることは目に見えてたはずだろ?


なのにどうして…


「……向き合う時がきたのかもしれない…」

「えっ…!!?」


思いもよらない自分の言葉に驚いて、俺は瞬時に左手で口を押さえた。


「それは、あの人と…話せ、って言ってるの?」


震えながらも、俺を真っ直ぐに見る美紗から、目を背けることが出来ない。


ゆっくり押さえていた手を下ろし、口を開いた。


「…そうだよ。
美紗だって本当はこのままじゃダメだ、って分かってるだろ?
だから、この機会に話し合おうよ…」


また美紗は震え出す。


涙は堪えても出て来る。


俺の目からも、気付かないうちに涙が溢れていた。


「………あたっし…」


その瞬間、保たれていた理性は飛んだ。


美紗のこんな弱々しい顔を見るのは、あの日以来だった…。




俺は力強く美紗を抱きしめていた。




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